不眠日記

寝れない夜に書く日記

オセロ・ゲーム

※ この物語は、恩田陸の小説「光の帝国 常野物語」および「エンド・ゲーム」についてのネタバレを含みます

恩田陸の小説シリーズに「常野物語」というのがある。常野物語は「常野の人」という超能力者一族の物語である。一番最初の本は「光の帝国」というタイトルがついている。「光の帝国」は短編集のような本で、10個ぐらいの章からなり、基本的にはそれぞれ独立しているが、いずれも常野の人についての物語である。その物語の中に「オセロ・ゲーム」というのがある。そして、常野物語シリーズのスピンオフである「エンド・ゲーム」は、「オセロ・ゲーム」の続きを一冊の本にしたものである。

「オセロ・ゲーム」の主人公は「表の人」である。この物語の世界観では、世の中の人間は3種類に分けられる。普通の人、表の人、裏の人である。そして、裏の人と表の人が出会うと能力バトルが始まり、負けた方は「裏返されて」しまう。裏返された人は、裏返される前のことを完全に忘れてしまい、裏返した方の陣営に属することになる。つまり、表の人だった人は裏の人になり、裏の人は表の人になる。裏の人、表の人は、裏返されることを非常に恐れている。これが「オセロ・ゲーム」の構造である。

自分でも書いていて何が何やらわからないが、読んでいる人も何が何やらわからないだろうし、何が面白いのかはもっとわからないだろう。これは抽象的な構造を抽象的な形で物語る物語だからである。小学生の自分はこれを読んで面白いとは思わなかった記憶がある。

「オセロ・ゲーム」は何を抽象しているのか、どういう言葉にしたら良いのかわからないが、ともかく、「裏返される人」っているよなということを最近思っている。そして「裏返された人」は裏返される前のことを綺麗に忘れてしまう。そして、裏返される人は裏返されることを強く恐れている。しかし、その人がその面に属することには特に必然性とか理由とかはないのだ(だから裏返されることを恐れるとも言える)。

主人公がかつて「裏の人」であったこと、主人公の娘が主人公と「同じ面」の陣営に属していることは示唆的である。2019年の今、恩田がオセロ・ゲームの続編を書くとしたら、主人公の娘が親とは逆の陣営に裏返される物語を書くのではないか。あるいは、裏の人であることも表の人であることもやめる物語を。

抽象は面白い物語を生む、というか具象な物語は寒い。しかし抽象的な物語を読み解くのは難しい。難しいというか具象を知らないと抽象を読み解くことはできない。

光の帝国 常野物語 (集英社文庫)

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エンド・ゲーム 常野物語 (集英社文庫)

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