不眠日記

寝れない夜に書く日記

中退キャンセルと、その後について

この記事は、Kyoto University Advent Calendar 2020の3日目の記事です。 

京都大学で1年留年した後、中退を検討し、最終的に卒業してから1.5年ちょっと経ちました。本記事は、そのへんに関する怪文書です。

経緯

留年、中退検討、卒業の経緯については、以下の記事にまとめてありますが、長いので3行でまとめると以下のような流れになります。

  • 様々な理由により単位を取ることができず留年した
  • 進級後も、就活・授業のストレスから精神をやってしまい、学業の継続は困難と判断し、中退して就職するべく動いた
  • 研究室の教授に相談したところ引き止められ、教授や研究室の人々から配慮を受けながら卒論と残りの単位を片付け、卒業・就職した

genya0407.hatenadiary.jp

卒業トラブルの原因、あるいは大学卒業という炎上プロジェクト

なぜ留年・中退検討などの卒業トラブルが発生したのか、ということを最近考える機会があったのですが、その一つの原因として、大学卒業は炎上しやすいプロジェクト*1であることが挙げられると思います(ここ怪文書ポイント)。

プロジェクトマネジメントの一般論として、QCDS(Quality、Cost、Delivery、Scope)の全てを満たすことは難しいと言われますが、大学卒業プロジェクトにおいてQCDSはいずれも調整が難しいです。

Quality (品質)

大学卒業プロジェクトにおいて、科目への理解度が品質に当たると思います。ソフトウェア開発プロジェクトにおいてもよく言われることですが、品質を落とすとその直後は速度が出ても、長期的にはプロジェクトの進行に悪影響が出ます。大学卒業プロジェクトについて言うと、例えば一夜漬けをして理解度が低い状態で定期テストを済ませると、次の単元を理解できなくなり、次第に一夜漬けによる対応すら難しくなっていくでしょう。

Cost (予算)

一般的なプロジェクトでは、予算を追加して成果物の質・納期を満たすという選択肢を取ることがしばしばあります。具体的には作業者の数を増やす、高い機材を購入して効率を上げる、作業を外注する、などの手段を取ります。しかし、大学卒業プロジェクトではこれは難しいです。というのも、作業者を増やしたり作業を外注することは、端的に不正行為だからです。高価な機材を購入して品質・納期を達成する、ということも想像しづらいです(大学院生の家庭教師を雇うとかでしょうか?)。あとは仕送りを増やしてもらってアルバイトの時間を減らすというのも「予算の調整」に含まれるかもしれません。しかし、そもそも追加の予算を獲得すること自体が難しい環境にある学生も少なくないです。

Delivery (納期)

納期の調整も、大学卒業プロジェクトにおいては難しいことが多いでしょう。この場合の納期とは、ミクロな視点では課題の提出期限や期末テストの実施日が、マクロな視点では大学卒業にかける年数が、それに当たると思います。前者は、教員と交渉することで調整が可能になるケースもあるにはあるのですが一般的にはかなり難しいです*2。また後者についてですが、こちらは交渉対象者が親(= 学費を捻出する主体)と、(内定を持っている場合は)内定先の企業ということになるでしょう。親については、1年程度の延長は許容してくれる可能性もありますが、内定先については難しいケースも多いでしょう。

Scope (プロジェクトの対象範囲)

ソフトウェア開発プロジェクトにおいてスコープは、実装する機能の数やその特性を表します。卒業プロジェクトのスコープは、単位の数や配属先の研究室ということになるでしょうか。前者については、卒業に必要な最低単位数を動かすことはできないので、調整の余地が少ないです。後者については、人気の分野の研究室に配属されるのを諦めることで調整可能かもしれません。

つまるところ、大学卒業は炎上への道が舗装されたプロジェクトであり、デスマーチ(徹夜)を伴い、Deliveryの遅延(留年)やプロジェクトの中止(中退)はしばしば発生します。

とはいえ、僕が留年したり中退を検討する羽目になったのは、プロジェクトマネジメントの失敗というよりは、そもそも電気電子工学(科)を思ったより楽しめなかったことが大きいとは思います。ただでさえ少ない自分というリソースを授業に振り分けず、寮での活動やプログラミングに多く割いたことが、プロジェクトの進行を妨げました。

実際問題として可能だったのか、あるいはそれをしたらうまく行ったのかという話はさておき、情報学科への転学科はなるべく早い段階で検討するべきだったでしょう。プロジェクトマネジメントでも、早い段階で計画を修正するのは大事って言われてますし(適当)。

なぜ卒業できたのか、あるいは人を頼るということ

とはいえ、1年間の留年を挟み、最終的には卒業できているわけです。そしてそれは、単に1年間延長したから納期が延びて卒業できたぜ、という感じのものでもありませんでした。

では何が要因で卒業にこぎつけられたのかと考えると、やはり教授に相談した*3のがポイントでした。上の記事にある「アナログな選択肢」を提示してくれたことは直接の解決に繋がりましたが、それよりも、研究室に配属されたことにより、「大学生活において困り事を抱えたときに相談する相手」を獲得したことが一番大きかったです。

当時の京都大学工学部電気電子工学科は、研究室に配属されるまで教員との接触が薄かったです。一応担当教授というのは入学時からアサインされるんですが、年に30分程度しか接触の機会がありません。年に30分しか接触の機会がない、しかも忙しい人に、困り事を相談するのは無理ですよね。そのことにより、進級に単位が足りないであるとか、授業がつらいであるとかの困り事を相談することができず、留年・中退が発生しやすい構造になっていたのではないかと思います。

また、研究室に配属されたことにより、まず「困ったら教授に相談できる」という状態が確保され、それに加えて、研究室の中で同期や先輩との関係が生まれ、こちらでも困り事を相談できる相手が増えました。上の記事にも書いたとおり、僕は電気電子工学科の学生との人間関係が希薄だったのですが、ここでいわゆる「横のつながり」が強制的に形成されたことによって、その部分が補完されました。

上で触れたような要因に加え、当時は自分の中の「自分のことは自分で解決できなくては駄目だ」という規範が強すぎたのかな、となんとなく思っています。社会人になっても「自分のことは自分で解決する」ことは(まだ)求められていません*4。むしろ困ったことはすぐに上司に相談するようにと教育されます。いわんや学生をや、といったところです。

研究室に配属されたことによって相談相手が明示され、人を頼りやすくなったというのが、上で述べたような「卒業できない理由」をどうにかやり過ごして卒業できた要因かなと思います。

余談:崩した精神について

余談ですが、中退を検討していた時期に発症した不眠症が、最近かなりよくなってきました。一番ひどいときは、疲れ切っていても薬なしでは一睡もできなかったのですが、最近は処方される量の1/4程度まで薬を減らしても問題なく入眠できるようになっていて、ここ数日は、全く薬を飲まずに入眠できる日も増えてきています。やはりストレスが不眠の原因だったんだなと思います。

私にとって、授業を受けて定期テストを受けるという生活はかなりのストレスでしたし、就職活動も大きなストレスとなっていました。研究は楽しくもあったけど自明にストレスで、入社後も、研修は結構ストレスが大きかったです。配属されてからも、不慣れさや仕事のハードさからストレスを感じていました。

やっと最近慣れてきて、また仕事のハードさもやや軽減され、ゆったりと働けるようになり、ストレスはかなり小さくなりました。

精神壊すと数年は引きずるとか、数年経っても「最近回復してきたな」と感じ続けるとかの話聞いてたけど本当だったんですね。でも、不眠症は不治の病ではありませんでした*5

で、結局中退しなくてよかったの?

そりゃあ、結果論的には、中退しなくてよかったってことにはなります。学歴は無いよりは有ったほうがいいし、研究の経験は無いよりは有ったほうがいいです。

学歴があるとと身構えられるとかそういうのはあるけど、そういう「ドス」の効き方で言ったら京大中退のほうが強いでしょう。そういう「ドス」がほしいと思ってた時期が私にもありましたし、高学歴中退検討人は割とみんなそれを思ってる気がします。しかし、ドスを効かせたところでそれは自分にとっては大事なことかもしれないけど、それによって実際の便益を得られるかというと微妙な気がする。

でも、「中退しなかった結果卒業できた」っていう結果論だけ見ても意味はなくて、というのも、中退するか悩んでいた時期(5回生の春頃)は、既に一年留年している状態にあり、今年度中に卒業までこぎつけられる見込みが立っていなかったのであって、 1) 今年度中に卒業して内定先に予定通り就職する 2) 精神をこれ以上悪化させない 、の2つを両立できるかどうかって、その時点では全くわからなかったわけです。

その状態で、1と2を目指した結果1も2満たせないリスクを回避するために、2のみを取りに行く(= 中退する)のだって間違った判断とは言えないと思います。ただ、私の場合は研究室の教授が割と厚めにサポートしてくれるという話になったので、それを頼みに1と2を両方取りにいったという判断は、(結果論的には)良かったと思います。

僕の場合は中退しなくてよかったけど、一般的に中退をしようとしてる人に対して「中退をするべきではない」とは言えないし、言いたくないです。無責任に「諦めんなよ笑」みたいに言われてつらい気持ちになったりもしたので。

*1:期限があり、独自性がある(ルーチンワークではない)という意味で、大学卒業はプロジェクトであると考える

*2:近年の大学では、教員側がそれを禁じられているらしい

*3:そのときは、相談しにいくという気持ちではなく、「中退します」と意思を伝えて終わりにするつもりだったのだが。

*4:これは、一から十まで上司の指示を仰がねばならない、という意味ではありません

*5:少なくとも私の不眠症