不眠日記

寝れない夜に書く日記

五十嵐清の「法学入門」を読んだ

五十嵐清の「法学入門」を読んだのでその感想を書きます。

様々な「法学入門」

Amazon を「法学入門」で検索すると様々な本があります。

https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B3%95%E5%AD%A6%E5%85%A5%E9%96%80

多くの本は、実務的な観点で書かれることが多く、例えば、「刑法」「私法」のような各法や裁判制度の解説が中心となるようです*1

僕が読んだ本は、五十嵐清の「法学入門」ですが、これは実務的というよりは学術的な観点から法について論じています。

www.nippyo.co.jp

上記のページから目次を引用しますが、「学術的」と述べた意味がなんとなく感じられるのではないでしょうか。

第1章 社会規範としての法
 第1節 法とは何か
 第2節 法と習俗
 第3節 法と道徳
 第4節 法と宗教
 第5節 法規範の特色と構造

第2章 法源としての法
 第1節 法の分類
 第2節 制定法
 第3節 慣習法
 第4節 判例
 第5節 条理
 第6節 学説

第3章 法の適用と解釈
 第1節 法の適用
 第2節 法解釈の意義
 第3節 法解釈の方法
 第4節 法解釈学の科学性
 第5節 法学と法解釈学

第4章 法と法学の発展
 第1節 古代・中世の法と法学
 第2節 近世大陸法の発展
 第3節 英米諸国における法の発展
 第4節 社会主義法の発展と崩壊
 第5節 わが国における法と法学の発展

この本を読んだからといって実務的な利益を得ることはなかった一方、法の学問としての面白さを感じることができました。また、学術的な内容でありつつも平易に記述されており、法学に関する知識がなくても面白く読み進めることができました。

感想

この本の中で特に面白いと感じたのは「社会規範としての法」および「法源としての法」の2つでした。一般用語としての「法」はいわゆる六法全書にかかれている条文としての法を指すと思いますが、この2つの章では、実際にはより広い概念が関連して「法」をなしているということが示されます。

例えば、「法と習俗」の節では、法は習俗によって支えられる一方、法は習俗を克服する役割も持つと記述されています。昨今においては夫婦別姓同性婚などのトピックについて考えてみるとわかりやすいと思います*2

法源としての法」では、六法全書にかかれている条文としての法、すなわち制定法以外にも様々なものが法の根拠として利用されることが示されます。例えば商法における「この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは民法の定めるところによる」という記述が引用されたり、裁判官の判決と過去の判例の関係について議論されたりしています。

このように、「いわゆる六法全書にかかれている条文としての法」以外の様々なものが「法」に関連しているという点について理解が深まりました。

さらに、最後の章である「法と法学の発展」では、主に欧米各国の法に関する歴史が解説されていますが、そもそもがこの本を読むに至ったきっかけが「比較法学」に興味を持ったことだった*3こともあり、興味深かったです。ちなみに、この章では社会主義法についても取り上げられていますが、それを読む際に自分がロシア史を全く知らないことがわかったので、別で本を読んでみようと思っています。

全体を通して、各テーマに関して様々な言説を取り上げて批判を加えるという構成になっていて、その点が良いと感じました。例えば「法とは何か」という節においては、4つほどの立場を取り上げ、それぞれの問題点を指摘することにより、読者に広い観点を提供し、理解を深めることに成功していると感じました。

プログラマーが法学を学ぶことの意義

法学とプログラミングの親和性が高いということはしばしば指摘されるところだと思います。実体験としては、法学部の人がプログラミングに手を出して面白いと言ったり、実際にプログラマーに転職する例はいくつも観測しています。

逆に、プログラマーが法学を学んで面白いと思えるのだろうか?という疑問があったのですが、結論としては非常に楽しく法学(の入口の部分)を学ぶことができたと思います。

私が1プログラマーとして法学入門を面白いと感じた理由はいくつかありますが、まずは、法と「レビュー制度」との類似性を指摘することができると思います。

レビューにおいては「慣習」と「コーディング規約」がしばしば対立します。慣習が規約に昇格されることもあるし、逆に慣習を否定する規約が制定されることもあり、慣習法と制定法の対立に類似しています。

そもそも、規約を解釈して具体的なコードに「判決」を下すという行いは裁判制度を思わせますし、形式的に規約を適用するとおかしなコードが正とされるところを、レビュワーが解釈の技術を駆使したり「条理」の観点から reject するみたいなこともあり、リードエンジニアにはまさに本書で解説されているような「名裁判官」的な振る舞いが求められることもあるのではないでしょうか。

また、そもそもプログラマーの仕事は法と関連しているということもあります。例えば GDPRプロバイダ責任制限法コンプガチャ規制、著作権、ソフトウェアライセンスなど、仕事の中で法を意識することはしばしばあります。とはいえ、個別の法に対する言及はほぼ無いので、この観点から直接「法学入門」を面白いと感じたわけではないです。

前述のように、この本を読んだからといって仕事に直結する何かがあるわけではないですが、幅を広げるという意味でたまにはこういうのを勉強してみるのもいいなと思いました。

まとめ

五十嵐清の「法学入門」を読みました。この本は実務的というよりは学術的な本であり、かつ平易で読みやすいので、法律の専門家を目指していない人が読んでも面白いと思います。

特に、プログラミングと法学の親和性が高いというところから、プログラマーの人が読んでみると面白いのではないでしょうか。

*1:目次を軽く眺めただけなので間違ってたらごめんなさい

*2:本の中にも家族法は特に習俗の影響が強いとの記述がある

*3:知り合いの法学部卒の人に比較法を初心者が勉強するのに良い本はないか?と聞いたときに推薦されたのがこの本だった