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「星を継ぐもの」読了

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(image by @BookMisaki)

 

ジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」を読みました。非常に面白いSF小説で、特に多少なりとも(科学の)研究に携わったことがある人が読むと非常に面白く読めると思います。

 

以下若干のネタバレを含むので、気にする人は読まないでください。

 

サイエンスフィクションとしての「星を継ぐもの」

この小説の面白いところは、「サイエンス」フィクションであるという点です。僕は卒業研究を半年やった程度でサイエンスに関する素養がそれほどあるわけではないのですが、サイエンスについて以下のように理解しています。

すなわち、サイエンス、あるいは研究とは 1)謎を発見する 2) 調査を行う 3) 謎を説明する仮説を生み出す 4) 新たな謎が生まれて1に戻る ...というループを繰り返すことです。

「星を継ぐもの」はこのループをストーリーの中で再現しています。

物語の冒頭で「5万年前の人類の死体」が月面で発見されます。5万年前に人類が月に行けるはずはないので、これは大きな謎です。この謎を説明するために様々な調査が行われ、関連した謎が次々に発見されます。主人公は、それらの謎に関する調査結果を統合し、矛盾のない仮説を提示します。

この仮説の素晴らしさに科学者や世間の人々は熱狂しますが、その仮説を検証する中で新たな矛盾や謎が生じ、再び調査・検証のフェーズが始まります。このサイクルは中盤にかけてものすごい勢いで加速し、謎が次々と生まれますが、主人公のとあるひらめきにより、それまでの伏線を回収しつつ謎が統一的に説明されます。

この一連の流れはまさにサイエンスです。

なぜ「星を継ぐもの」は面白いのか

まず前提として、「謎が解けると気持ちがいい」という感覚は、比較的多くの人が持っていると思います。ミステリーが人気なのはその証左です。また、不勉強であまり詳しくないのですが、なろう小説が人気なのは「問題が解決されると気持ちがいい」という感情から来ているのではないかと予想していて、その感情は「謎が解けると気持ちがいい」という感情に近いのではないかと考えています。

前節で述べたように、「星を継ぐもの」もまさに、この「謎が解けると気持ちがいい」という感覚を頻繁に刺激してくる物語であり、これが面白さの源であると思います。

さらに、「星を継ぐもの」が面白さは、そうした人間の根源的な感情にのみ由来するのではなく、サイエンスフィクションという枠組みによって規定される物語の構造が、その面白さを増幅しているのではないかと考えます。

前節でも述べたとおり「星を継ぐもの」という物語は、サイエンスにならって、謎の提示→謎の拡散→謎の解決という短いループを何度も回すという構造になっています。このように、謎を提示しつつも適宜「まとめ(=謎の解決)」を挿入することで、物語の全体像を把握しやすくなっています。これは小説のみならず一般的に物事を伝える優れた手法として知られています。この構造によって物語が理解しやすくなり、ともすれば難解の烙印を押されがちな[要出典]SFを読者に読ませ、またその面白さを増幅することに成功しているのではないでしょうか。

おわりに

色々と言っていますがとにかく「星を継ぐもの」は面白いのでぜひ読んでください。

ただ、冒頭の数ページは謎の提示だけがあって読むのが大変で、正直面白くないです。50ページぐらいまで読むとだんだん面白くなってくるので、そこまでは気合で読み進めてください。 

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)